バリ取りの常識を覆す低圧圧縮成形法で樹脂成形に変革をもたらす(日本省力機械株式会社・社長 田中章夫氏)
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金属やプラスチックの成形・加工につきものの「バリ」。バリ取りは面倒だがものづくりには不可欠の工程だ。この地味なバリ取り、とくに不可能とされたプラスチック成形品のバリ取りで世界初の自動化装置を開発したのが日本省力機械である。バリの切断理論を解明し、屑を出さずに完全除去する画期的な技術で、プラスチックの圧縮成形を革命的に変えようとしている。
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金属の切断・切削、あるいは金型を使った金属・プラスチックの成形で発生する厄介な出っ張りが「バリ」だ。これまでバリ取りには、ヤスリを使って手動で取り除くか、機械で削り取ったり研磨する方法しかなかった。いずれにせよ、手間とコストのかかる作業だ。
とくにプラスチック成形の場合、バリ取りは大きな課題だった。何しろプラスチックは熱や圧力で変形しやすいため、機械による研磨ができない。人手に頼るにはコストと時間がかかりすぎる。そのため、金型に投入したプラスチック樹脂に圧力をかける圧縮成形ではバリが発生しやすいので、金型に樹脂を流し込む射出成形が発達してきたが、それでもわずかなバリは出る。
樹脂業界では、このバリを自動的に除去することは不可能だと言われてきた。この不可能を世界で初めて可能にしたのが群馬県伊勢崎市に本社を置く日本省力機械である。同社の田中章夫社長(62歳)は次のように語る(以下、発言は同氏)。
「私はもともと機械屋です。機械屋からすると樹脂の業界はちょっとおかしいのではないかと思っていました。金属加工も必ずバリが出ますが、バリ取りにコストがかかることは顧客も認めている。ところが、樹脂の場合、バリ取りはコストに入っていないんです。テレビ枠や自動車のパネルなどの大きなプラスチック部品ではバリを出さずに成形することは難しいのですが、おカネをもらわずに手で取るしかなかった」
同社は、もともと生産ラインの自動化や省力化のシステムを委託制作する会社だったが、製造業の海外進出や不況によって受注が激減したことから業態を転換。自動バリ取り機を独自に開発・進化させてきた。
「バリューマシン」と命名された三次元倣いバリ取り機は六軸の多関節ロボットを組み合わせることで、加工工程で発生する変形したバリであっても自動的に高速で除去できる。“倣い”とは加工品の形状に従って動くことを意味する。
バリ取り機は様々な業界で使われているが、とくに自動車業界で内装のパネル類の仕上げに多く活用されている。タイの自動車関連工場からの受注が活発で、2010年度は前年度の2倍に増えたという。
意図的にバリを出してしまう逆転の発想
バリ取り機を発展させて2006年に発売したのが「超音波トリム加工機」である。同社が開発した超音波カッターを用い、自動車用のフロアカーペットや成形天井、内装材など複雑な三次元曲面やガラス繊維などを含む固い素材も自在に切断できる。従来はウォータージェットやレーザーなどが使われてきたが、前者は騒音や排水処理の問題があり、消費電力も大きかった。
後者は材料が溶けたり、発火のおそれがあった。ところが、超音波トリムは騒音もなく切り屑も出ない。消費電力はウォータージェットの10分の1ですむ。ランニングコストも低減でき、環境面の負荷も少ない。
09年に安川電機と共同で開発した「双腕ロボット型自動バリ取り装置」は、2本の腕をもつロボットが一方で加工対象物をつかみ、もう一方でバリ取りをする。樹脂成形装置と組み合わせれば、バリ処理までを一貫して無人化できる。
このように同社が自動バリ取り機を開発したことで、樹脂の成形法が革命的に変わる可能性が出てきた。従来はバリをなるべく出さないように金型に強い圧力(型締力)をかける必要があったが、田中社長は逆転の発想で、意図的にバリを発生させ、成形後に取り除けばよいと考えた。
「『低圧圧縮成形法』と名付けましたが、中・大型の樹脂成形のしくみはこれで大きく変わるはずです。すでに数十社から問合せがあり、現在、2~3社と共同で実験を行なっています」
昨年、発表した低圧圧縮成形法は金型をわずかに開き、樹脂を射出して金型に圧力をかけ成形するが、型締力は従来の5分の1以下ですむ。低圧で圧縮するため成形品の歪みやねじれも防ぎ、良品率が上がって50%程度のコストダウンになると見込まれる。エネルギー消費量も3分の1になる。
成形品の変形が発生しにくくなるため、より薄い成形が可能になる。これまで炭素繊維入り樹脂製のノートパソコン天板は厚さ1.5ミリが限界だったが、この成形法によって0.5ミリにできるようになった。材料費の軽減、軽量化も図れる。自動車で多用されるプラスチック部品が軽量化できれば、燃費や走行性能の向上につながる。自動車、家電、建設材料などで従来は樹脂化が難しかった部品の成形も可能になるという。家電製品にも広く応用がきくため、電機業界からも注目を集めている。
バリを取って表面を仕上げる時間は1メートル当たりたった10.16秒で、バリが多くても加工時間が延びるわけではない。金型にかける圧力を低く抑えられるので金型自体の寿命が延び、その薄肉化や成形機の小型化も可能。低圧圧縮成形法は、まだ、動き出したばかりだが、同社は射出成形機も含めた一連のシステムとしての提案に力を入れていくという。
「従来の常識を覆したと、各方面から期待されています。われわれの発想がちょうど時代にマッチしたのでしょう」
切ることを理論化しバリの完全除去に成功
田中社長はもともと電装品の一部上場企業で生産技術の設計を担当していた。
「自分の力を試したいという気持ちと、30年前当時の脱サラブームもあって会社を辞め、独りで事業を始めました」
1981年に田中社長は日本省力機械を創業し、生産ラインの自動化・省力化のシステム設計を手がけた。当時はメーカーの設備投資も盛んで順調に会社は成長し、最盛期には社員50人を抱えるまでになった。
「省力機械の設計専門で社員50人というのは小さい規模ではありませんでした。ただ、当時は目の前の仕事に無我夢中で、採算や原価計算など経営の基本をないがしろにしており、会社の体制や組織づくりにも目を向けていなかった」
創業から10年ほどは右肩上がりだったが、80年代後半から国内メーカーの海外移転が加速する。バブル崩壊後の構造不況が訪れると、企業の設備投資が冷え込み、受注が激減した。危機感を抱いた田中社長はプラスチック成形のバリ取りに着目した。
「実は自動化ラインの設計でプラスチック成形のバリ取りを手がけていたんです。当時はバリを削る方式で樹脂の切り粉が静電気を帯びて切り口にくっつき、塗装不良などが出て困っていました。静電気を防ぐだけの対処療法ではなく、切り粉を出さずに切る方法はないかと考え始めました」
田中社長は絶えず問題意識をもち、新製品や新技術のアイデアをいつも温めているという。なぜバリが出るのか、切るとはどういうことか、カッターナイフで紙を切るようにプラスチックを切るにはどうしたらいいか、田中社長は根本から調べ、考えた。そして、実験と計算を繰り返し、ついに切断理論を作り上げた。
「日本刀でワラを切る瞬間を高速撮影すると、刀の押す力と引く力の複合で切断されることがわかりました。もう1つは食パンです。ナイフでは、ふわっとしたままだと切りにくいが、パンを潰すとスパッと切れる。つまり斜めに圧力をかけて刃を動かすと、よく切れることがわかったのです」
田中社長は圧力をかけて引き切ることで、摩擦係数が高くなると小さい力で切れる、刃を速く動かせばよく切れることを理論化し、刃に圧力をかけながら高速で引き切る装置を設計。3年ほどの試行錯誤を繰り返し、2002年に自動バリ取り機を世界で初めて開発した。しかし、第1号機は芳しい評価を得られなかった。完全にバリを取りきれず、価格も高かったのだ。だが、田中社長はあきらめない。政府や群馬県から計5回の助成金を受け、開発を続けた。助成金は合計で2億円に達した。
その結果、超音波カッターを使った自動バリ取り機の開発に成功。これは刃を超音波で高速振動させてバリの根本から切断するもので、完全にバリを除去できるようになった。
政府の助成のうち、05年に「新連携(異分野連携新事業分野開拓)」の認定を受け、この超音波カッターを応用した「超音波トリム加工機」の開発に取り組んだ。
超音波発信機の製造メーカーと、ロボット動作ソフトの開発会社と連携したが、新連携のアドバイザーの紹介で切断理論を研究する大学教授と知り合うこともでき、カッターの性能と効率を上げることができた。
「中小企業は今後、異業種も含めてネットワークを作り、開発、販売、メンテナンスなどでジョイントできると面白いでしょうね。そのような関係が大きな力をもつと思いますよ」
同社は「自然の摂理に沿った考え方、これに基づいて事業を創造する」ことを企業理念の1つに掲げている。
「いまも7~8つの商品化のアイデアを温めていますが、いずれもが仕事のなかで必要に迫られて生まれたものです。アイデアは自然界のなかにありますが、絶えずアンテナを張っておくことは大切。技術誌やネットにはよく目を通していますね」
当面は低圧圧縮成形に力を入れると言う。その後はまた業界を驚かせる新技術を生み出す力を同社はもっているのだろう。
月刊「ニュートップL.」 2011年5月号
吉村克己(ルポライター)
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